やまだみのる

瞬間の変化を詠む

ぼくが手ほどきを受けた小路紫峡先生は瞬間写生の作者として有名ですが、 先生から繰り返し教えられたことを思い出して書いてみようと思います。

自然写生をするとき、時間の経過を詠むと句が弱く(焦点がボケる)なるので、力強い作品を作るためには出来るだけ瞬間の変化を捉えて詠むようにすることが大切です。 一句を鑑賞していくとき、読むごとにどんどん連想が広がっていくような作品が秀作といえます。

焦点のあまい作品からは連想の広がりは生まれませんが、 瞬間を写生するとその前後の情景は鑑賞する人の連想によってどんどん広がっていくのです。

拙作を阿波野青畝先生が添削してくださった例をあげてみます。

原句> 花筏早瀬の波を躍りゆく

添削> 花筏今や早瀬にさしかかり

花筏:桜の落花が筏のように組になって川面を流れていくのをいう。

作者の言わんとしていることは全く同じですが、原句は説明的で時間が流れています。 添削された句は瞬間写生となってとても力強くなっています。 そして、ゆったりした流れから今まさに早瀬にさしかかろうとする花筏の躍動感、 次にひとしきり早瀬の波にもまれた後、 やがてまた静かな流れに変化していく花筏の情景が目に浮かぶようですね。

瞬間を詠む事によって時間経過は連想の世界に委ねられ、そしてそれは一句の余韻として の効果を生み出すのです。 時間の経過を言ってしまうと焦点がぼけて句に余韻がなくなってしまうのです。

これが瞬間写生の力なのです。 吟行で句を作ったあとも作りっぱなしにしないで、 冷静になってこのようなことを意識して推敲出来るように訓練したいものです。

(2001年7月11日)