みのる:子供は親の背中を見て育つ…といわれます。家長として一族を支え、判断が必要なときは頑固一徹で威厳のあった父親としての背中、若かりし頃はなにかにつけ頼りにしてきた逞しい夫の背中である。かくして子育ても終わり一線からも引退して好好爺となったその背中を見守りながら今の平和な生活を築いてくれたことに感謝し、末永く元気でいてね…と祈っているのである。

康子:私も「草矢」という夏の季語を初めて知りました。ススキの矢飛ばしの動画も見ました。私はお孫さんと遊んでいるご主人が浮かびました。楽しそうにしているご主人に向けて草矢を打った、若きし頃を思い出して遊んでみた、という感じでしょうか。打った後はみんな笑いで包まれたのでしょう。「小さくなりし」の措辞により長く連れ添ったご夫婦と分かり、「草矢うつ」ことにより昔を思い出して「今」の幸せを感じているのかもしれません。夏の草原が浮かび、微笑ましい情景が浮かぶ句でした。

かえる:長年連れ添った、仲の良いご夫婦。お年を召されてもちゃめっ気たっぷりでなんとも可愛らしい。若い頃に草矢でご主人に悪戯をされた思い出があるのかもしれません。二人から始まって家族が増えて、一周回って、またお二人にもどられた夏。すこうし小さくなった背中へ懐かしい悪戯をしたものの、射手もおなじだけ歳をとっているので当たらなかったりして。末永く仲良くお過ごしください。そんな言葉をかけたくなる素敵な句です。

澄子:季語の草矢、初めて識りました。青薄や青茅の茎を引き抜き、矢に見立てて投げること、 川を挟んで投げあったり、的をすえて投げたりする とありました。草矢打つという悪戯心と小さくなりし夫の背にという下五の結びが 仲良く連れ添った御夫妻の老いを感じる刹那 そんな切ない瞬間をいつもながら簡潔に上手く捉えた御句だと思います。心がじんとなりました。

むべ:子どもの遊び、道草の風景かな…と思いきや、中七「小さくなりし」でえ?何のことだろう?とひきつけられ、下五「夫の背へ」でああ…と謎解きができる構成になっています。梅雨の晴れ間にご夫婦で散歩に出かけ、伸びてきた青葦などを折り取って草矢を作って飛ばしたのでしょう。ご夫婦の仲睦まじさ、長年連れ添ってきたことへの感謝、自身だけでなく夫にも現れるつつある老いの兆し。まさに偕老同穴です。それでいて、重くならないのは、初夏の風が吹いてくるかのような「草矢」という季語の力でしょうか。